ドキュメンタリー『ナショナル・ギャラリー 英国の至宝』
巨匠、フレデリック・ワイズマン監督が、イギリス初の国立美術館であるナショナル・ギャラリーの日常と秘密に迫るドキュメンタリー。美術品設置や額縁製作、絵画の修復など、190年以上繰り返されている美術館の日常からアートの素晴らしさを伝える。
「キネマ旬報社」データベースより
ドキュメンタリー映画『ナショナル・ギャラリー 英国の至宝』を見た感想です。
2020年に東京・大阪で『ロンドン・ナショナル・ギャラリー』展が開催されることもあり、見てみました。
『ロンドン・ナショナル・ギャラリー』展についての記事はこちら。
ロンドン留学中にもお世話になった(?)ナショナル・ギャラリー
イギリス、ロンドンにあるナショナル・ギャラリー。
有名絵画目白押しのイギリスが誇る美術の殿堂であるとともに、一大観光施設でもあります。
ナショナル・ギャラリーは私のロンドン留学中に数えきれないほど訪れた場所・・・
それはお手洗いを借りに。
なにせ無料だし、交通の便がいいトラファルガー広場にあるもんだから、バスの乗り換えのついでによくお手洗い休憩に使っていました。
おトイレの扉は重いが、隣のポートレートギャラリーより数が多いので。
え?ちゃんと絵も見ましたよ!一応博物館学芸員の資格も持ってますし!(?)
ルーベンスの前から何十分も動かなかったのは私です。
でも個人的には作品が大味すぎて、カフェも落ち着けるテート・ブリテン、ウォレス・コレクションなどを愛用(?)していました。
それはさておき、映画の話。
上質なドキュメンタリーだった
ナショナル・ギャラリーのすべてをご紹介!ドキュメンタリーです。
少々長いのが難ですが、質のいいもの見たなあという感じです。
映し出されるのは
- スタッフによる来館者への絵画の説明
- 学校の先生に向けた美術の教え方レクチャー
- 美術館運営についての会議の様子(助成金が減額になったらしい。どこも同じ)
- 修復作業とそれに取り組む修復家たちの姿
- 市民に向けた絵画教室の様子
- 特別展開催準備やそれにともなう館内の配置換え
- 絵画を見る来館者のまなざし・・・
とにかく
「ナショナル・ギャラリーのすべて見せます!」
でした。
面白かったのは抽象的な絵画の絵の線に膨らみをもたせて、目の見えない人にも「指で触って感じる絵画」のワークショップ。
絵画は「目以外からでも見る(感じて理解する)ことができる」と突き付けられたような気がしました。
こんなこともできるんですね、考えた人すごい!
ベラスケスの絵画修復シーンや修復家の「古いものをどう修復するか」、描かれた当時の状態に近づけるのか、それとも今の状態を生かすのか、など修復にあたっての葛藤も垣間見れて興味深い。
日本でも五重塔や仏像を作られた当時の姿にすると、金ピカ極彩色で違和感があるから、現在の状態で修復しているのと同じ問題ですね。
日本とイギリスではそもそも「美術教育」が違うのか
来館者向けの絵画の前でのレクチャーでは、
画家が作品を描いた時代、当時の風俗、絵画が飾られていた状況、
「もし、あなたがこの絵の登場人物だったら?」
も交えての説明。
とてもわかりやすく「絵に対する見方」を変えてくれるもの。
こういう説明を日本でももっと聞きたいなあ。
描いてあるものとか、そういうのよりもう一歩踏み込んだ見方をしてみたいんだよ!と常々日本の美術館や博物館の
「そこにあるんで、見てください」
という来館者放置状況に疑問を感じている私。
新しいものを取り込む努力が感じられない。
(何度も言うけど一応学芸員の資格を持っているものでね!)
『教養としてのロンドン・ナショナル・ギャラリー』の中で木村泰司さんは以下のように述べられています
美術館そのものが啓蒙的な施設であり、美術史という学問がより浸透している点が、日本とは美術教育だけでなく美術鑑賞のアプローチの大きな違いにも表れているといえます。
『教養としてのロンドン・ナショナル・ギャラリー』
これは私もロンドンの美術館に頻繁に出没していた時に感じました。
文化施設であるとともに、気軽に学べる学習施設でもあるんですよね、美術館や博物館は。
だから子供の教育にも力を入れている。
学校の先生向けのレクチャーで講師の方は
「教育プログラムで私たちが目指すのは知識と学習だけではありません。それぞれが絵に対する独自の応じ方を探ってほしいのです」
と言っていました。
見て「きれい」「面白い」だけでももちろんいいのですが、それだけだとつまらない、「自分で考える」ということですね。
常に新しいものを取り込んで進化しつづけているナショナル・ギャラリー。
「美術とは何か」を、上質な映像で堪能する映画でした。
長いけど、見て損はありませんよ~。
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ナショナル・ギャラリー 英国の至宝(字幕版)
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